母親扱いされる女。男二人に甘える

そりゃあ、確かに焼肉したいって言い出したのは私だけど、総勢十五人もやって来るなんて思ってもいなかった。
そんなことを今更言っても仕方がないから、私は台所で一人てんてこ舞いをしている。
「肉だけじゃなく、野菜も食べたいよね。お隣さんから貰った大根、漬物にしようよ」
「里芋とこんにゃく芋で作った本当のこんにゃくの煮物。あれ、食べたい」
「デザートに柿も食べようよ。庭の木に鈴なりになってるし」
「あれ、畑の椎茸、誰か収穫した?」
何でも私に聞かないで、やらせないで、と言いたくなったし、実際に言った。そうしたら母親に怒られた子どものように、誰もがおぼつかない手つきながらも手伝いをしだした。
私は、この町で完全に母親扱いだ。
朝昼晩、毎日ひたすら料理をし、一緒に住むメンバーの面倒を見ている。
時には同じワーキングステイでやってきた人々や、大学生でこの町のレポートを提出している女の子、この町のブランド化を進めている推進員からその友人まで、「ねぇ、ご飯ない?」と言って家に来ては食事をしていく。
このワーキングステイの企画を立てた役場の人間にまで「ママ」と呼ばれて、机を間借りしている事務所にいても、来客の度にお茶とお茶菓子を用意し、人々をもてなした。
いや、別に料理ももてなすのも好きでやってるのよ。でも、役場の人にまで「ママ」と呼ばれて、結局、皆の面倒を見て、一体何なの、この役回り。
たまには、私もゆっくりしたい。何も考えないで、誰かに甘えたい時だってあるの。
家事に疲れた主婦のように、そう思うぐらいだった。
「これ、炭を起こせばいいの?」
京都から来ているコーダーが、慣れない火起こしに悪戦苦闘する私から火箸を取り上げて言う。
「もう、俺たちがやるから何もしなくていいですよ」
夏に移住してきたというこの町のブランド化を進める推進員の人が言う。
「一緒に東京からきた皆は何もやってくれないんだもん!」
ふくれっ面をしながら私が叫ぶと、
「それは、頼られてるってことですよ」
推進員が眼鏡の奥の目尻をふにゃっと垂らして言った。 挿絵 夜。山腹にある家にばらばらと人が集まりだしてくる。役場の人間が、地元で美味しいと評判の肉を仕入れてきてくれた。夜が更けるにつれ、持ち寄った酒が次々と空けられていく。
音楽がない、と誰かが騒ぎ出した。そうしたら、ギターが出てきて、歌が始まった。
「これがこの町のカラオケ? 笑える」
「でも、何だか楽しいね」
そう言い合って、また笑う。茶の間で、土間で、縁側で、誰もが酔いに少し顔を火照らせて語り合う。
深夜。騒ぎ疲れた人々はいつのまにか眠りについていた。
「流星群を見ようって言ってたのに」
そう呟くと、まだ起きていたコーダーと推進員が一緒に見に行こうと言ってくれた。
山腹の夜は、昼の日差しのぬくもりが嘘のように冷え込む。毛布を体に巻いて、三人で道路に寝転んだ。
「青春って感じ」
「だね」
「なんでこの町で」
「本当だよ」
そんなことを言い合っては、また笑い合う。
寝静まった家を抜け出し、山道を少し歩けば満点の星空がある。
そして、毛布にくるまり、出会ったばかりの男二人に囲まれ道路に寝転がり、夜空を眺めている。
「なんか、不良ママって感じ。子ども達が寝たあとに抜け出して、男と星を見てるなんて」
「いいんじゃない、不良ママも。頼られるのに疲れたら、たまには甘えたら?」
コーダーが、私の肩に軽く手を乗せて言った。
寝静まった子ども達を置いて家を抜け出し、夜の山へと行こう。
この町でできる夜遊びは、山奥で寝転がり星を眺めることぐらい。
だけど、横には疲れた私をいたわる男が二人もいて、「甘えてもいい」なんて言ってくれる。
「ママみたいになる自分を発見するなんて思ってもみなかったし、実は甘えたがりな自分を見つけるなんて、もっと予想外だよ。ましてや、こんな何もないところで」
私がそう言うと、
「人生は発見の連続です」
眼鏡の奥の目を細め、何もかも見透かしたようににやりと、推進員が答えた。

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