結婚なんかしたくない女。輝きを集める

「だって、女の子は、やっぱりいい家庭を築いてお母さんになるのが一番幸せでしょ?」
そんな風にこの世の理のように言う男性は世の中に大勢いる。その言葉に「仕事を一生続けたい」と返すと、いつもこの答えがやってくる。
「それって女の子の気まぐれでしょ? 結婚前に自由でいたいだけだよね」
もう疲れたから「子どもなんていらない、結婚なんかしたくない」と言い切ってはその言葉を封じた。
そんな生活にも慣れきって、もう誰も「結婚は?」なんて聞いてこなくなった頃に、ワーキングステイの募集記事を見つけた。
女の子特有の「行きたーい!」なんていう勢いで一緒に仕事をしているメンバーが盛り上がりだして、「まぁ、付き合ってもいいかな」というぐらいの気持ちで、私はこの町に来た。
町にいる間、いつもの仕事をした。私達が住んでいる家には、インターネット環境がない。だから、この町のブランド化を推進しているところの事務所を借りていた。
私の仕事は、ウェブマガジンの編集だ。デザイナーやイラストレーター、カメラマンやライターに仕事を振り、その全てをとりまとめる。
真夜中に鳴る電話、突然やってくるスケジュールの変更。取引先のダメだし、発注先とのひっきりなしの連絡。
この町にいても、東京での仕事を変わらずにしていた。
けれど、ふと窓の外に視線を移すと、遮るものなど何もない広い空が見えた。 illustration1 ごちゃごちゃして、バタバタして、きりきり舞いばかりしているけれど、やっぱりこの仕事が好きだ。
その全てのごちゃごちゃをどうするか考えて采配し、ひとつの形になるところを見るのが好きだ。
好きだって、思っていいよね?
空に疑問を投げかけるように聞いた。
編集という仕事をするなら、東京にいるのが当たり前。そうしなければ、新しいものや刺激的なものは生み出せない。だから、東京にいなくちゃ。長年住んだせいか、思い出やしがらみが重くて、好きな町ではないけれど。
仕事をもっとしたいなら、結婚や子どもなんて重荷になるだけ。仕事をしながら、男性が望むようなまともな妻になんてなれるはずがない。だったら、最初から願うことなどしない方がいい。こんな自分を受け入れて欲しいなんて。
今まで、ずっと、そう思っていた。
けれど、本当は、
好きな仕事がしたかった。
好きな場所で暮らしたかった。
誰かと、本当に好きな相手と、家族を持ちたかった。
暮れかけた薄青い空の東に、一番星が出ていた。星に願いをかけるなんて、ロマンティックな少女のようで、自分でも柄じゃないと思う。けれど、私は、そっと胸の中で呟いた。
願っても、いいよね?
星が、小さくきらっと輝く。
いいんじゃない?
そう、言われたような気がした。
事務所に戻ると一緒に東京から来たウェブマガジンのメンバーが「これ、どうすればいいんですか?」と言って書類を差し出してきた。夏に移住してきたというこの町のブランド化を進める推進員が、打ち合わせをする私達を楽しげに見ている。そうしたら妙に押しの強い役場の人間がやって来て、「おやつにどうぞ」と柿を置いていった。
京都からやってきたコーダーは、何やら一人でぶつぶつ言いながらキーボードを打っている。この町のレポートを書いている大学生がやってきて、「今日、泊まるところがないんです」と言う。「うちにおいでよ」と言うと、推進員の友人だという女の子が「私も泊まっていいですか?」と便乗してきた。
好きな、仕事をしている。
空の広い、好きな場所にいる。
そして、ついこの前に会ったばかりなのに、家族のように一緒に過ごしている人々がいた。 illustration2 目の前には仕事が山積みだ。また、急遽、発注が入った。
「ねぇ、これできる?」
いつも東京で仕事をしている一緒に来たメンバーに聞いてみる。
「やるやる、ちょっとスケジュールきついけど。終わったら焼肉しようよ!」
その言葉に周囲にいる誰もが、「焼肉食べたい」「俺も俺も」「友達も呼んでいい?」などと言い出した。
仕事場を出たら、もうあたりは真っ暗だった。
夜空には、星が連なるように輝いている。
なかったことにしようとした願いが輝くかけらとなって、夜空に散りばめられているような気がした。
「え、ちょっとイノシシが出た!」
「うそ、あっちには鹿がいる!」
そんな風に、一緒に来たメンバーたちが騒いでいる。
「星も綺麗だよ」
はしゃぐ皆に声をかけて、空を見る。
イノシシや鹿に遭遇して、頭上には空を埋め尽くす満天の星。
その景色を一緒に眺めている人々も、私にとって、輝くかけらだ。
輝くかけらを形にしよう。欲張りなくらいに、全てを集めて。
輝くかけらを、編んで集める。
人生だって仕事だって、きっと、私はそれができる。

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