生きている感じが薄い男。流れ星をみる

仕事は好きだ、都会にいるのも嫌いじゃない、彼女がしばらくいないのは寂しいけれど、それなりの日々を送っている。でも、なんだか毎日が同じルーティンで、生きてる感じが、薄い。
そんな風に何となく思っていて、けれど、「まぁ、そんなもんだよな」と肩をすくめて、せめて、週末は好きな自然があるところに行こうなんて、やたら人を集めては出かけて。
週末だけが楽しみだ、なんて言うようになるなんて、学生の頃には思ってもみなかったな。
時々、そう思ったりもしたけど、これが落ち着くってことか、と諦め混じりに自分を納得させていた。
そんな時に、勤めていた会社の経営が危うくなった。
一度も遅れたことがない給料が、最初は一週間、二週間と遅れていく。社長は、毎月月末になると「すまん、もう少し待ってくれ」と頭を下げる。
最初は、少しくらいならいいか、と思っていた。だが、社長の言う「もう少し」は次第に「いつになるかわからない」に変わっていった。
こりゃ、そろそろ考えなきゃな。今後の身の振り方も。
ふと気づく。
あれ? 俺、学生時代、こんな風になりたかったんだっけ?
そんな風に思っていた春、誰も知らない田舎町の情報発信についてのウェブディレクションと映像制作をしないか、という話が来た。 挿絵 同じ福岡なのに、県内出身の俺ですら名前を知らない、いわゆる本当の田舎町。Googleで検索をしたっていつ作られたんだかわからない時代錯誤なデザインの役場のホームページしか出てこないような町だ。
だけど、その話を聞いた瞬間に心が踊った。
何だか、生きている感じがする。
そう思った瞬間、一も二もなく、その話に飛びついていた。
最初は、博多を拠点にして、時々、この町に来て仕事をするつもりだった。
この町には、駅すらない。最寄駅は、隣町にある。
この町には、スーパーすらない。大型のショッピングモールは、隣の県だ。
だけど、季節ごとに色を変える山々がある。初夏にはホタルが舞い飛ぶ川がある。喉を滑り落ちるように体に染みわたる湧き水がある。
毎日が楽しくて、すぐにこの町でも住む場所が欲しくなった。山奥に月に一万円で山小屋を借りて、都会にいる友達を呼んだ。 「山小屋を借りたよ、遊びにおいでよ」
そうは言ったものの、女の子が遊びに来るとは正直、思ってはいなかった。
その子は、学生時代に知り合い、都会にいた頃は団体でたまに遊ぶ程度の知り合いだった。 挿絵 彼女が来た季節は、秋。ちょうど、この町の名物の落花生の収穫の季節だ。
「落花生って、花が落ちたところから実がなるから落花生っていうんだよ」
地元の人間に教えてもらった知識をひけらかしたりして、そうしたら「すごい」と言われて得意になって。
俺、今、何も持っていない。金も地位も、何もない。だけど、生きてる感じはすごいする。
そう言ったら、彼女は「今の方がずっといいよ」と顔をくしゃっとさせた。
その秋に、彼女がまたこの町に来た。
山小屋では、遮るものなく星が見える。流星群の観測日和、二人で縁側に並んで空を見上げた。
俺が今、住んでいるところなんて、家賃一万円の山小屋だ。クーラーもなく、暖房なんて薪ストーブのみ。
けれど、頭上にはどんなに目を凝らしても全部は見ることが出来ないくらいに溢れる星がある。
東の空から、大きく尾を引いて星が流れた。
「すごい」
同じタイミングで、二人で言った。 流れ星がきらっと光るのと同じように、彼女は少し笑って、「こんな風にずっといれたらいいな」と言う。
胸が、鼓動で大きく鳴る。生きてるって感じが、する。
「いようよ、ここに」
一際に輝く一等星のように、彼女が「いいね」と頷いた。

『「my home town わたしのマチオモイ帖」 日本中がマチオモイの春!』(2013年)映像参加作品。上毛町で撮影した映像は、何も特別なことは起こらない。だけど、“生きてる感じがする。”

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