まえがき

『福岡最東端の町で、町のために情報発信のスキルを提供し、自分の仕事をしながら一ヶ月間、
働きながら住むワーキングステイをしてみませんか?』

このような募集がインターネット上で行われた。
主催者は上毛町役場。
Twitterなどで話題になり、3組の参加者が選ばれた。
また、大学生が町に滞在してレポートを制作する企画も同時に行われた。

町の魅力を説明する為に15篇の短編小説を用意した。
どれも5分程度で読めてしまう簡単なもの。
内容はあくまでフィクションである。
しかし、こういった試みとそれに携わる人間、
そして「上毛町(こうげまち)」は、実在している。

  • 大入の紅葉(だいにゅうのもみじ)

    大入の紅葉(だいにゅうのもみじ)

    誰にも教えたくない紅葉の穴場も、このあたりで暮らす人に尋ねればすぐに教えてもらえます。夏は蛍が舞うという澄んだ小川と、高く遠くまで続く棚田に面している、森の入口に、大入貴船神社の鳥居が立っています。口々に大入貴船神社を勧める、町の人たちの声の中には、こんな声もありました。「あそこの神社は、こま犬が可愛い。どんなに可愛いかは、自分の目で確かめてごらん!」

  • 川底柿(かわぞこかき)

    川底柿(かわぞこかき)

    柿の底に4列の溝があり、すこし四角い、下から見ると四つ葉のクローバーのような形をした、珍しい柿が、この辺りでは、メジャーです。「川底柿」と言う品種の、渋柿です。渋を抜かなければ、美味しく食べられません。「ひと手間かけることがふつう」という感覚は、こんな柿を毎年いただくことで、育まれてきたのかもしれません。

  • 柚子の加工(ゆずのかこう)

    柚子の加工(ゆずのかこう)

    風が冷たくなってくると、柚子がたわわに実ります。町中からとりわけ香りのよい柚子が選ばれて、4人のおかあさん達の手で洗われ、刻まれ、餡に練りこまれて、上毛町の名物「柚子羊羹」になります。包丁の音が絶えず、大きな鍋から湯気がわく、小さな工場で、おかあさん達は、おねえさん達だった頃から、ずっと羊羹をこしらえ続けてきました。

  • momiji

    柚子羊羹(ゆずようかん)

    「おかあさん、お疲れさま。誰かいっしょに羊羹を作る、若い人がいればいいね。こんなに美味しい羊羹、これからもずっと食べたい。ずーっと作られていてほしい」という言葉を呑み込んだのは、昔から変わらない手間ひまの量と、変わらない価格に圧倒されたからでした。たとえ若者のほうが体力はあるとしても、芯の強さは、とてもかないません。

×